外国車の美しいエンブレム ―それはきわめて紋章的

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  多くの自動車には、一番目に付きやすいフロントグリルにエンブレムが付けられています。路上で偶然珍しいエンブレムを見て、あれはなんという車だろうと思った経験のある方も少なくないと思います。
  エンブレムのデザインはメーカー、ブランドによってさまざまです。
  日本車は性能や安全性では評価されますが、エンブレムに関してはメーカー名もしくはブランド名の頭文字を変形させただけのものが多く、物足りなさを感じることが少なくありません。日本車のブランドのエンブレムによくある、イニシャルを図案化しただけのものはちょっと手を抜きすぎていると思います。
  一方、欧米メーカーのエンブレムには凝ったデザインのものが多く、特に伝統的な紋章・旗章の様式を取り入れたものが見られます。
  この記事では、紋章的なエンブレムを中心に、欧米の自動車メーカーのエンブレムをまとめてみました。なお、ブランド名とメーカー名が異なる場合は、ブランド名の後にメーカー名を括弧付きで表記します。
 
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プジョー
プジョーの紋章的なエンブレム
  向かって左を向いたライオンのエンブレムです。
強さや支配力を感じさせるライオンは多くの紋章に採用されるチャージで、用語によって姿勢が区別されています。このように向かって左を向き、立ち上がったものはライオン・ランパントlion rampantと呼ばれます。
プジョーはもともと鋼材会社で、ライオンは商品の強靭さをアピールしていたそうです。
  なお、欧米の紋章は、十字軍の時代に盾の表面に描いたしるしが由来だとされています。そのため、紋章を説明するときの「左」は盾を持った人にとっての左側を意味し、「向かって右」と同じ方向となります。この記事では分かりやすさのため、向かって右(あるいは左)という書き方をすることにします。
 
BMW
BMW-エンブレム
  フィールドを上下左右に四分割し、青と白で塗り分けた紋章です。このような上下左右の四分割は、紋章ではクォータリーquarterlyと呼ばれます。
  また、青と白は紋章で使われる基本的な色です(他の基本色は黄、赤、黒、緑、紫。なお、紋章では白と銀、黄と金は同一視されます)。本社のあるバイエルン州の州旗が青と白で構成されているため、エンブレムに同じ色を採用したそうです。
 
 
 
アルファロメオ
ALFAROMEO-アルファロメオのエンブレム
  まず、フィールドが左右に分割されています。このような左右の分割はパーティ・パー・ペイルparty per paleと呼ばれます。
  そして向かって左は、白地に赤い十字架。向かって右は、ビショーネと呼ばれる人食い蛇です(口元の赤いものは、飲み込まれる人の上半身のようです)。
  白地に赤十字は本社のあるミラノ市の紋章であり、人食い蛇は中世のミラノのシニョーレ(中世イタリアの都市国家の僭主のこと)であったヴィスコンティ家の紋章です。
 
 

 
キャデラック(ゼネラルモーターズ)
cadillac-現行エンブレム
  フィールドがクォータリーで四分割され、向かって右上と向かって左下は更にクォータリーで分割された複雑なデザインです。
  向かって左上と向かって右下は、金地に黒の横帯(フェスfessと呼ばれます)が描かれています。そして向かって右上と向かって左下の中の、向かって左上と向かって右下は赤地のみ、向かって右上と向かって左下は白地に青いフェス。
 
 
Cadillacキャデラックの旧エンブレム
  なお、旧タイプのエンブレムでは金地の上にアヒルのような白い鳥が描かれています。
  キャデラックというブランド名はデトロイトを開拓したフランス人Cadillacに由来し、エンブレムも彼の紋章が原型になっています。
 
 
 
ポルシェ
porsche-ポルシェのエンブレム
  まずフィールドがクォータリーで四分割され、中央部分に小さな盾(イネスカチャンinescutcheon)が乗せられています。
  向かって左上と向かって右下は金地に黒い鹿の角が3本描かれています。向かって右上と向かって左下は赤と黒のバリーbarry(フィールドを4本以上の偶数本の横帯によって分割したもの)です。
  中央の小さな盾には金地に黒い馬が描かれています。騎士にとって身近な馬は紋章に用いられることが多く、ライオンと同じように姿勢が区別されています。このように前脚を跳ね上げた姿勢はforceneやprancingなどと呼ばれます。
金地に黒い跳ね馬は本社のあるシュトゥットガルト市の紋章であり、鹿の角はバーデン・ヴュルテンベルク州の紋章のサポーターに由来します。
 

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