ギャル系なるものを考えるー第1回

 

読者の属性が想定できないので,マージナルな部分に踏み込んでオタク的な記述にならないように“なるべく”心がけ,表層的なことを綴ろうと思う。今回は,巷間でギャルと呼ばれる女性たちがが好んで読むギャル系雑誌とはどのようなものなのかについて説明しておこう。
ギャル系雑誌とは具体例をあげれば『egg』や『Popteen』といったミドルティーンからハイティーンを対象にしたものに始まり,もう少し上の年齢層をターゲットにした『S cawaii !』(主婦の友社)『BLENDA』(角川春樹事務所)といった少し上の年齢層をターゲットにしたものや,あるいはギャル系を広義にとらえればキャバクラ嬢の業界専門誌のような性格をもつ『小悪魔ageha』(インフォレスト)もこれに該当する。

 これらの雑誌に登場するモデルは,中にはほとんどプロ化している者もいるとはいえ,ほとんどが読者モデルと呼ばれる素人だ。提示される身体性は読者とさほど変わらず,真理的距離はきわめて近いということになる。注意が必要なのは,素人モデルとはいえ,読者からすれば有名人であるという点であり,すなわり身近で親近感を抱くには十分な存在であると同時に憧れの対象でもあるということだ。このような憧れと親しみを同時に抱かせる身体像が人気の秘訣といえそうだ。
おそらく多くの者にとって,ギャル系雑誌の理解を難しくさせている理由のひとつは,積極的な読者でない限りそれが誰なのかがまったくわからないような読者モデルが有名化されていることであろう。たとえば「つーちゃん」や「くみっきー」あたりは現在テレビにも出演するほどの存在になり,高い人気を獲得しているのだが,あだ名で表記されてもそれがはたして誰なのかがさっぱりわからないというのが一般的な感覚ではないか。さらに一般的な認知度が低いと考えられる「みずきてぃ」や「ぴかりん」と聞いてそれが誰であるのかがわかるようなら,それはもう現役のギャルか筆者のようなマニアかのいずれかである。
しかしこの部外者にとってのわけのわからなさこそが,「それ,私もわかる!」というような生き様や価値観への共感を多くの場合に伴って,モデルー読者の親密性をより強固なものにしているのである。

しかし,ファッション誌をまったく読まなくとも,現在『Anecan』(小学館)で活躍する押切もえの存在を知る者は多いはずだ。意外と知られていないことではあるが,彼女もかつて,『Popteen』において飛びぬけた人気を博し,カリスマ女子高生として君臨していたのである。
ちょうど1990年代後半の黒ギャル全盛期の頃の話である。近年では,たとえば『CanCam』の専属モデルである舞川あいくが『Popteen』出身である。
もっとも,押切もえがギャルとして人気だった当時,有名だった人物は他にもたくさんいる。上記の『小悪魔ageha』の姉妹雑誌としてその名もずばり『姉ageha』(インフォレスト)というアラサー向けの雑誌があるが,黒ギャル全盛期の人気読者モデルが復活を果たしているので,やや踏み込んで言及みよう。
同時代を生きた者としては,誰よりもまず,『egg』で絶大な人気を誇った宮下美恵に反応せずにはいられない。具体的な数値で示せるものではないけれども,体感としては宮下の人気は他を圧倒するものであったし,それは押切をも凌駕し,渋谷ギャルの,いや全国のギャルの頂点に君臨していた存在であり,当時のギャル雑誌の読者であれば知らぬ者などいなかったと断言していい(もし仮に知らないならばそれはもぐりである)。
他にも水野祐香や石めぐといったかつての井eggモデルに当時を思い出さずにはいられないが,往年のeggモデルについては説明し出すと止まらなくなるので,別項に譲りたい。ここではギャル雑誌出身ではない人物に焦点をあて,少しだけオタクな世界に案内しつつ,この類の雑誌の本質に迫ってみることにしたい。

『ageha』 にAngelという名のモデルがいる。筆者の知る限り,これまで彼女が雑誌やテレビで活動していた過去はない。誌面における肩書きはキャバクラ嬢だ(※最近になって肩書きが変更された)。10年以上前もキャバクラ嬢であった。2000年頃,彼女は六本木のとある有名なキャバクラでナンバー1だった人物であり,六本木のキャバクラになんらかのかたち―キャ バクラ嬢として働くかあるいは客として訪れるか―でかかわっていなければ完全にわけがわからない人物だといえる。
翻せば,版元が彼女をモデルとして抜擢していることからも推察できるように,六本木を中心に歓楽街ではかなり知られた存在であったのだ。ハーフだったかクォーターだったか記憶が曖昧になってしまったが,Angelは英語が非常に堪能であったため,「エンジェル」の発音がとても流暢(カタカナで表記するならばエインジェルか)でしかも大げささな身振り手振りで自己紹介をするので,一度話せばけっして忘れることない抜群の存在感であった。そういえば,かつてキャバクラで働いていた経験がある女性も,筆者にAngelについて同様の感想を語ってくれたことがある。Angelは,当時の歓楽街において,身近に存在する有名人で有り憧憬の対象であったのである。
ギャル系雑誌の読者とモデルの関係について,少しはお分かりいただけただろうか。Angelは一例に過ぎないものの,ギャル系雑誌の空間が,このような読者とモデルとの蜜月によって成り立っていることはけっして珍しくはないのである。
もちろん筆者にも誰なのかわからない人物は登場するし,無理して詳しくなる必要もない。ファッション誌には,単純に好みの顔を探して鑑賞するという,とりわけ女の子が進んで実践する楽しみ方があるのだから(もちろん,最新の流行を知るために利用する人がいることは知っている)。
第2回へ続く
※次回はギャル雑誌の変遷について綴る予定。