書評:「かわいい」の帝国/古賀令子(青土社)

著者は文化女子大学(当時)の教授で,専門はファッション誌を主資料に近・現代ファッション研究。
書籍内容をレビューする前に, この本は著者の略歴が帯に書いてあるだけで,本体にはいっさいの記載がない。これはね,出版社勤務の知り合いにいわせれば「ありえない」事態らしい。帯は一部のマニアを除けば捨ててしまうこともあるだろうし,古本屋で購入した場合はそもそも帯がないことも多いし図書館で借りればカバーすら外されている。
著者の経歴がどうであれ内容がよければ問題ないという考え方も出来るかもしれないが,どのような属性の人―研究者なのかジャーナリストなのか―が記したの かは読み手にとって重要な情報である。それに責任の所在を明らかにするという意味でも「著者が何者であるのか」は明記すべきだと思う。
さて,本書はわが国における“かわいい”文化の誕生を,中原淳一を引き合いに出しつつ戦前の少女文化にその萌芽をあるとし,少女文化から若者文化への流れにその後の変遷を位置づけ,若者文化に「かわいい」への志向を認める。

その後の「かわいい」をめぐる表象を現在までの流れをファッション誌を資料にして,紐解いていく。 このあたりは雑誌研究を専門にしている著者としては,腕の見せどころであるし知識量が問われる部分だ。難波先生には到底及ばないものの,膨大な脚注だけでも一読に値する。